動体視力とは? 止まっているものを見る視力とのちがい
動体視力は、動いているものを見分ける力です。健康診断で測る「視力」とは別の力で、測り方もひとつではありません。ふつうの視力とのちがい、測り方、スポーツ選手の研究、ブラウザのテストの限界を順に整理します。
結論
- ふつうの視力(静止視力)は、自分も見る物も止まった状態で、どれだけ小さいものを見分けられるかを表します。
- 動体視力は、見る物か自分が動いている状態で見分ける力です。何が動くかで、指す中身がいくつかあります。
- 静止視力が良くても、動体視力が良いとは限りません。ただ、ピントが合っていないと動体視力も下がります。
- 野球選手の小さな研究では、選手の動体視力の高さは主に「動く物を目で追う力」によるものと結論づけています。
- 測り方の標準はまだありません。ブラウザのテストは決まった条件での目安で、研究や講習の数値とは直接くらべられません。
ふつうの「視力」は止まっているものを見る力
健康診断や眼科で測る視力は、静止視力と呼ばれます。日本では「1.0」「0.7」のような小数で表すのが一般的で、Cの形をしたランドルト環という記号を使います。5メートル離れたところから、直径7.5ミリ・太さ1.5ミリ・切れ目1.5ミリのランドルト環の切れ目の向きがわかれば、1.0にあたります。このとき切れ目は、目から見て1分(1度の60分の1)の角度になります。
動体視力とは
動体視力は、見る人と見る物のあいだに動きがある状態で、物を見分ける力です。何が動くかで、次のように分けて呼ぶことがあります。
| 呼び方 | 何が動くか | この記事で出てくる例 |
|---|---|---|
| DVA(Dynamic Visual Acuity) | 距離をたもったまま横に動く物 | 研究用の装置 HI-10、野球選手の研究 |
| KVA(Kinetic Visual Acuity) | 遠くからまっすぐ近づいてくる物 | 運転免許の講習で使う検査器 |
| 頭を動かしたときの動体視力 | 見る人の頭(物は止まっている) | 耳の奥のバランスの器官(前庭)を調べる医療の検査 |
3つ目は医療の検査での使い方です。頭を動かすと反射が働き、見ている物が視野の中心からずれないように目が動きます。この反射がふつうに働いていれば、頭を動かしながらでも止まっているときとほぼ同じ視力が出ます。視力表で3段より大きく落ちる場合は、何らかの異常のしるしとされています。
静止視力と動体視力の関係
日本語版ウィキペディアの「視力」では、動体視力と静止視力は別のものと考えられていて、静止視力が高くても動体視力が高いとは限らない、と説明されています。後で紹介する野球選手の研究でも、参加者は全員、静止視力が20/20(小数でいう1.0)以上でしたが、動体視力には差がありました。
一方で、静止視力がまったく関係ないわけでもありません。42人を対象にした2006年の小さな予備研究では、メガネなどで度を合わせた状態と、合わせない状態(静止視力が小数でいう1.0から0.6に落ちた状態)で動体視力をくらべました。2つのグループのどちらでも、度を合わせないほうが動体視力の値がはっきり低くなりました。一方のグループでは、見分けられる速さの平均が毎秒171.6度から151.8度に下がりました。
動体視力の測り方
研究でよく使われる方法
研究では、動くランドルト環の切れ目の向きを答えてもらう方法がよく使われます。国内では、半球形のスクリーンの上をランドルト環が左から右へ動く「HI-10」という装置が市販されています。80センチの距離から目だけで追い、切れ目の向きがわかったときの回転数、つまり見分けられる最高の速さを成績にします。この記事で紹介する論文の多くは、結果を「1秒に何度の速さまで見分けられたか」(度/秒)で表しています。
運転免許の講習で使う検査器
高齢者講習などで使う動体視力検査器は、警察庁の通達(2019年)で基準が決められています。こちらは近づいてくる物を見る KVA の方式です。
- ランドルト環が約50メートル先から約2メートルまで、時速30キロで近づいてくるように見せる
- ランドルト環は、30メートルの位置で視力1.0にあたる大きさ
- 切れ目の向きがわかった時点の位置から値を出し、5回の平均をとる。本番の前に必ず2回練習する
- 値は、静止視力と同じように0.1〜1.6などの視力の数字で示す
- 結果は、同じ年代の運転者と、30〜59歳の運転者の両方とくらべて評価する
評価は5段階程度とされ、5段階の場合は低いほうから約6%・22%・44%・22%・6%の人数になるように区切る例が示されています。
測り方はまだそろっていない
2022年の短い論文では、動体視力は年齢・コントラスト・目標の速さ・大きさ・動く道すじ・見えている時間・色などで変わるとしたうえで、標準となる基準値や測り方は、まだ広く受け入れられたものがないと書かれています。2023年の総説では、目標の速さよりも、目標が見えている時間のほうが結果への影響が大きいという1973年の研究も紹介されています。
年齢や向きによるちがい
愛知工業大学の石垣さんらが1994年に発表した研究では、5〜92歳の826人の動体視力を、動く速さを少しずつ落としていくランドルト環で測りました。論文の要旨によると、5〜15歳で急に伸び、15歳でピークになり、20歳からは一定の割合で下がっていきました。多くの年齢で男性のほうがよい結果でしたが、はっきりした差が出たのは5歳だけで、ばらつきは大きいとされています。
なお、日本語版ウィキペディアではこの研究を「5〜10歳にかけて急速に発達し、20歳ごろにピーク」と紹介しており、要旨とは書き方が少しちがいます。また2023年の総説では、50歳ごろまではあまり変わらず、その後に下がるという報告も紹介されています。
動く向きでも変わります。2023年に大学生15人を調べた研究では、ランドルト環が横に動くときは平均で毎秒451.5度、縦に動くときは毎秒405.7度まで見分けられ、縦のほうがはっきり低い結果でした。縦は横の約9割です。日本語版ウィキペディアでは上下は左右の約8割という報告が紹介されていますが、出典は示されていません。「縦のほうが苦手」という点は同じですが、差の大きさは資料によってちがいます。
スポーツ選手の動体視力の研究
2012年の研究では、大学の野球選手8人と、スポーツ歴のない同年代の8人をくらべました。動くランドルト環の切れ目の向きを答え、75%正解できる速さを調べています。目を自由に動かしてよい条件では、野球選手のほうがはっきり速い目標まで見分けられました(小さい目標で平均毎秒404度と315度)。ところが、画面の中央を見つめたまま、中央から左右10度の範囲だけを動く目標を見る条件では、2つのグループにはっきりした差がありませんでした。研究者は、選手の動体視力の高さは、網膜に映る動く像を読み取る力より、主に動く目標を目で追いかける力によるものだと結論づけています。
2011年の水球の研究では、トップレベルの選手は運動の習慣が少ない学生より、速さ・コントラスト・動く道すじのどの組み合わせでも成績がよい結果でした。ただし要旨によると、トップレベルとその一つ下のレベルの選手のあいだには差は見つかっていません。
どちらも人数は少なく、くらべるだけでは「動体視力が高いから上手になった」のか「競技を続けたから高くなった」のかはわかりません。2024年の意見論文も、見る力や頭の働きを鍛える一般的なトレーニングが、試合でのプレーまでよくするという一貫した証拠はないと指摘しています。
ブラウザのテストでわかること・わからないこと
画面の書きかえと表示時間
画面は1秒間に決まった回数だけ書きかわります。1秒に60回の画面なら1回分は約16.7ミリ秒で、物を映せる時間はその倍数になります。ブラウザで行う実験の正確さを調べた2021年の研究では、物が予定より長く映ることが多く、そのずれの平均はブラウザ別で Chrome が11.50ミリ秒、Safari が30.02ミリ秒でした。
目に映る大きさと速さ
研究では、目から画面までの距離を決めて、目標の速さを「1秒に何度」で表します。ブラウザのテストでは画面の大きさも距離も人によってちがうので、目に映る速さも人ごとに変わり、研究の「度/秒」の数字とはくらべられません。
速い表示では「追う力」より「一瞬で読む力」
思いがけない物に目を向ける動き(サッカード)は、始まるまでにふつう約0.2秒かかります。物をなめらかに目で追う動きも、始まるまでに0.09〜0.15秒ほどかかります。表示が0.09秒より短い問題では、目で追う動きが始まる前に物が消えることになります。そのため速い段階では、野球選手の研究でいう「目で追う力」より、見つめたまま一瞬で読み取る力に近いものを見ていると考えられます。
ナカミドの動体視力テストでの工夫
ナカミドの動体視力テストでは、4桁の数字が枠の真ん中をはさんで左右どちらかへ流れ、消えます。練習1問のあと、正解が続くと表示時間が短く(同じ道のりをより速く)、まちがえると長くなる方式で16問答えます。結果は、後半10問で数字が実際に画面に映っていた時間の平均(ミリ秒)です。映っていた時間は毎回測って使い、消えた直後にはもようをかぶせ、目に残った像で読めないようにしています。
それでも、画面の大きさや距離、明るさのちがいは残ります。結果は、同じテストを受けた人の中でのだいたいの位置として見てください。医学的な検査や視力検査ではなく、運転の向き不向きを判断するものでもありません。
よくある質問
動体視力はトレーニングで上がりますか?
同じテストをくり返すと、慣れで成績が上がることはよくあります。ただ、スポーツのプレーまでよくなるという一貫した証拠はない、という指摘があります。
視力はいいのに、テストの結果が低めでした。
静止視力と動体視力は別の力なので、そういうこともあります。画面の明るさや目の疲れでも変わるので、時間をおいて試してみてください。
メガネやコンタクトはつけたままでいいですか?
ふだん使っているものは、つけたまま受けてください。度を合わせない状態では動体視力の値が下がった、という研究があります。
結果が低いと、運転に向いていないのでしょうか。
そうとは言えません。ブラウザのテストは遊びとしての目安で、講習の検査器とも方式がちがいます。ただし、ふだんの生活で動く物が見えにくい、見え方が急に変わった、というときは、テストの結果に関係なく眼科に相談してください。
動体視力テストを試してみる
横切る4桁の数字を、どこまで短い時間で読み取れるか試してみませんか。計算のしかたはすべて公開しています。
手順と計算は動体視力テストの計算のしかたで確認できます。見えてから押すまでの速さを測る反応速度テストや、1〜25を順にさがす集中力テストもあります。
参考にした資料
- 視力 - Wikipedia(日本語版)(小数視力、ランドルト環と1.0の基準、静止視力と動体視力の区別)
- DVA動体視力 - Wikipedia(日本語版)(DVA と KVA の区別、HI-10 の測り方、年齢による変化と上下・左右の差の紹介)
- Erdinest N, London N. Dynamic visual acuity and methods of measurement. Journal of Optometry, 2022(定義、測り方の2つの型、頭を動かす検査、影響する条件、標準がないこと)
- Chen G, et al. Advances in dynamic visual acuity test research. Frontiers in Neurology, 2023(検査の分類、前庭の検査での使われ方、見えている時間の影響、年齢についての報告)
- Nakatsuka M, et al. Effect of static visual acuity on dynamic visual acuity: a pilot study. Perceptual and Motor Skills, 2006(度を合わせない状態での動体視力の低下)
- 警察庁「講習において使用する動体視力検査器の基準について(通達)」2019年3月22日(講習の検査器の基準と評価の区切り)
- Ishigaki H, Miyao M. Implications for dynamic visual acuity with changes in aged and sex. Perceptual and Motor Skills, 1994(5〜92歳826人の年齢と性別による変化)
- Tachihara A, et al. Vertical dynamic visual acuity is significantly lower than horizontal dynamic visual acuity. Scientific Reports, 2023(横と縦の動体視力の差)
- Uchida Y, et al. Origins of superior dynamic visual acuity in baseball players: superior eye movements or superior image processing. PLoS One, 2012(野球選手とスポーツ歴のない人の比較)
- Quevedo-Junyent L, et al. Comparison of dynamic visual acuity between water polo players and sedentary students. Research Quarterly for Exercise and Sport, 2011(水球選手と学生の比較)
- Fransen J. There is No Supporting Evidence for a Far Transfer of General Perceptual or Cognitive Training to Sports Performance. Sports Medicine, 2024(見る力や頭の働きのトレーニングと試合でのプレーについての意見論文)
- Anwyl-Irvine A, et al. Realistic precision and accuracy of online experiment platforms, web browsers, and devices. Behavior Research Methods, 2021(ブラウザでの表示時間のずれ)
- Saccade - Wikipedia(英語版)(目を向ける動きが始まるまでの時間)
- Smooth pursuit - Wikipedia(英語版)(目で追う動きが始まるまでの時間)
この記事について
この記事は、ナカミドを運営するくぁくぁが、生成AI(Anthropic の Claude)の下書きの手伝いを受けて書き、参考にした資料を開いて内容を確かめました。最終確認日は2026年9月28日です。作り方は編集方針に書いています。まちがいや古くなった情報に気づいたときは、お問い合わせから教えてください。確かめて直します。